完璧なウイスキーといわれるシングルモルトのスコッチ・ウイスキー
芳醇な香りは、オークニー島の厳しい気候が生み出した自然の賜物、ピートの魔法だった。
しかし、それだけではない。オークニーには厳しい自然だからこその魅力を発見、発見…
Text : Tomoko Takahashi
Photo : kumasegawa
兎のかたちをした英国本島から北へ。雑誌の取材のために、フィッシャーマンズ・ニットで有名なシェットランド諸島の手前に浮かぶオークニー島まで、はるばる行って来た。シングルモルトのウィスキーファンならば、きっとご存知のはず。最も北にあるウィスキー蒸留所、ハイランドパークのある場所である。本来は、その蒸留所やシングルモルトについて解説すべきところであるが……残念ながら突っ込んだ解説について少々自信がないため、それらについては、専門書を読んでいただきたいと思う。何ゆえかと問われれば、なんとも歯切れの悪い回答になってしまうのであるが、つまり、恥ずかしながら私は下戸なのである。奈良漬け一切れで、かっぽれかっぽれになるほど、体内のアルコール分解酵素がない。大体、こんなヤツをシングルモルトのメッカに送り込む方も問題だと思うのだが、結果としてやってきてしまったのだから仕方がない。頼りは、フランス在住のスコッチ愛好家と自称する写真家。ゆえに、シングルモルトで名高いオークニー島を、シングルモルトはそこそこにして歩いた顛末をお話ししたい。
北海に散らばるようにあるオークニー島は、大小70の島から構成されているそうだが、実際に人が住んでいるのは、およそ半分の島だといわれている。島々は、北海という過酷な自然に放り投げられたように位置し、強風と、曇り空は、欠くべからずの日常だという。北緯59度前後という気象条件は、温暖な我々の暮らしの中の感覚でいえば、そう、高山の山小屋で暮らすようなものといえばよいだろうか。根を張った高い木々さえ、いたたまれないような、厳しい生業があるということを、オークニー島カークウオールにむかう飛行機の窓から、私は知ることになった。上空から見るこの島の周囲は、垂直に落ち込む絶壁になっていて、内陸に広がるなだらかな丘は、ヒースに覆われているのがわかった。案内人によれば、ここには、壮大な伝説があるという。
主人公は、美しい姫と一人の若者。常日頃、海の大怪獣が勝手気ままにあばれて海にシケをおこす。人々を苦しめるのをみて、美しい姫を怪獣に捧げ安泰な日々を約束させようとする。それを知ったアシパトルという若者が立ち上がった。アシパトルは、きままに暮らす怠け者だったが、美しい姫のために小船にピート(泥炭)を積み込んで、怪獣退治に出撃した。船と共に怪獣の腹の中に飛び込むと、腹の中でピートを燃やした。怪獣は、もだえ苦しみ死んでしまったという。そのときこぼれちったものが、オークニー諸島の小さな島々となったのだという。
案内人の話はそこまでである。その後、アシパトルと姫はどうなったのかが問題である。どうなったのだと、詰問した私に、この島を見てから考えろとのことだった。彼にはそれほど大きな問題ではないらしいが、御伽噺や伝説には、かならずオチがある。痒いところに手が届かないような、はがゆい気分で旅は始まった。オークニー諸島の中で、最も中心的な島であるメインランドのカークウオールに到着し、シングルモルトの取材に入ったわけだが、蒸留所そのものの取材は、かつて某雑誌に書いたこともあり、ここでは多くを語らずにおこう。ただ、特筆すべきは、最も北の場所に造られたシングルモルトの醸造所のある島ということ、ビートのきいた個性のあるモルトとして有名であるということを加筆しておこうと思う。
ハイランドパークの蒸留室に並ぶポットスティル。
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上空から確認できた緑の草原が広がるこの島に着いた私は、気まぐれな気候のために、6月だというのにコートを手離せずにいた。穏やかに晴れていると思うと、思いもかけず強い風に襲われ、吹きさらしの中に立ち往生してしまうといった状況になった。風は無論強い北風。寒い。一気に真冬の枯木立といったわが身。この体験を学習すると、大きな建物を常に確認し、風が吹き始めた時には足早に避難するようになった。そこそこの大きさの建物がない場合は、とにかく大男を捜すことににした。効果は期待できないものの、気休めにはなる。カークウオークは、オークニー諸島の中心的な町。小さな町ながら、繁華街ともいえる街並みが整い、ちぃちゃくて可愛い店が並んでいた。街全体は、歩いて回れるくらいの大きさである。土産物を並べる店も多いことから、観光客もそれなりに多いのだなと思わせた。
その中の一軒に、私は寒さを避ける目的で入っていった。田舎町ともいえるカークウオールでありながら、品のよい色調で統一された店内だった。オイルセーター、ウールで作ったアクセサリー、シルバー・クラフトなどなど。中でも、グレードの高い作品が、シルバー・クラフトであった。よくよく話を聞くと、空港の近くに手工芸の工房があるという。今回我々は訪れることができなかったが、一般の人でも島内を走るミニバスを利用して見学が可能ということだった。
私が手にとったのは、親指の先くらいの大きさで出来た、アザラシのブローチである。特にどこが気に入ったのかといえば、そのデザイン、形だった。このような具象的なものもあれば、ケルトの文様を写した作品もあったりして、夢中になってしまうほど。あれこれ見ながら、そのアザラシのブローチを買い求めることにし、キャッシャーへ。カードで購入する。私のサインは、日本語。漢字でしっかり自分の名をサインしてお買い上げ。手に取ったおばさんは、目をまるくして、「生まれて初めてカンジを見た」と興奮。別な字も書いて欲しいと、大騒ぎとなる始末。案内人は、宇宙人を見るような眼差しを私に向けるのだった。この土産物屋繁華街を通りすぎると、港へと到着した。
樽作りの職人。シェリー酒の樽やバーボンの樽などを使うという。
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